予祝(よしゅく) ~始めよければ終わりよし~

世界中を熱狂と感動の渦に包み込んだカタールワールドカップが閉会し、念願の優勝カップは南米アルゼンチンが手にしました。PK 戦の末惜しくも敗れたフランスが準優勝、8 強進出を目指す日本を退けたクロアチアが第 3 位という結果となりました。28 日間の激闘を制し、アルゼンチンを 36 年振りの優勝へと導いた原動力とは一体何だったのでしょうか―――

世界最高の舞台ともいわれるワールドカップでは、
代表選手たちの個々のスキルはもちろん、監督采配や控え選手、そして、応援サポーターを含めたチームとしての力が試されます。

大会 MVP に輝き、故マラドーナ氏と比較され続けたリオネル・メッシ選手は、多くの個人記録やタイトルが懸かっている中、エース番号の 10 番を背負い、チームメイトを鼓舞しながら堂々と最後まで懸命なプレーを続けました。自身を起点としながら若手メンバーの活躍の場を演出し、真剣な眼差しでプレーする姿や大舞台であっても時おり垣間見せる彼の笑顔に誰もが心を奪われたのではないでしょうか。

今大会のアルゼンチンはメッシ選手だけではなく、選手全員が躍動し、かつ、一人ひとりが持てる力を存分に発揮した大会であったように思います。全試合を通じて、チームとしての団結力や経験値においても他の強豪国チームを圧倒するものがありました。前年の 21 年に行われたコパ・アメリカ※①で FIFA ランク 1 位のブラジルを撃破し、見事優勝に輝いた実績も大きかったのかもしれません。
※① 世界で最も古いナショナルチームによるサッカーの大陸選手権大会、旧称は南米選手権。

この大会(コパ・アメリカ)の決勝戦のロッカールームで、
前述したメッシ選手は以下の言葉を通じてチームメイトに語りかけています。


『みんなに感謝している。』
『45 日間、本当にありがとう。最高のチームで楽しかった。』
『この期間、家族にすら会えなかった。ディバラはパパになったが、まだ娘にも会えていない。チノも同じだ。』
『なんの為だ、、?』
『この瞬間のためだ!大きな目標があったからだ!その目標まであと一歩なんだ!』
『あとは俺たち次第だ!今日この日にすべてを懸け、全力を出し切るんだ!』
『優勝カップを持ってアルゼンチンに帰り、家族やファンと一緒に祝福するんだ!』


彼自身には、すでにこの瞬間において、「優勝するイメージ」が出来上がっていたのではないでしょうか。未来が見えているかのように、そしてまた、結果が分かっているかのように話す彼の言葉には、チームを一つに纏める一流のマインドセットが働いています。目的を特定化し、結果を鮮明にイメージさせるビジュアライゼーション(視覚化)が感じられ、最後までやり遂げるという情熱や粘り強さも伝わってきます。これは、チームのその日のパフォーマンスを意識や思考からコントロールしようとしているのです。

一人の少年がこれまでサッカーというスポーツに費やしてきた時間はどれぐらいになるでしょうか。懸けた時間に比例するかのように同じ想いを持つ人たちが彼の元に集まり、その純粋な想いは形となって具現化していく―――
ワールドカップ決勝前のロッカールームの会話がどのようなものであったか定かではありませんが、コパ大会優勝後に、家族と再会した選手たちがそれぞれ W 杯優勝についても語っていたことは想像に難くありません。

―――予め祝う。
これを、日本では昔から『予祝(よしゅく)』と呼び、先に喜び、前祝いをすることで望んだ現実や夢の結果を引き寄せようとしてきました。今回はメッシ選手の言葉をご紹介しましたが、日本のアスリートでいえば、フィギュアスケートの羽生結弦選手も予祝を行なっています。彼は、ソチオリンピックに向かう飛行機の中で(先に)泣いていたと言われています。金メダルを獲っている自身の演技のイメージが完璧に出来上がり、先に喜び、感動して泣いていたのです。実際に大会時のコメントでも、「飛行機の中でイメージし過ぎて、飛行機の方が感動しちゃいました。」と語っています。

現代では主にアスリートやスポーツ選手に取り入れられているこの予祝ですが、遡ってみますと、そのほとんどが五穀豊穣や子孫繁栄、大漁祈願、家内安全、無病息災を願って行われてきたことがわかります。代表的なものに、誰もが知る「お花見」があります。これは、春になると満開になる桜を、秋の収穫期の稲穂の実り(豊作)に見立てていたことが始まりだとされています。ほかにも、漁船に掲げている「大漁旗」や2本の手綱を引っ張り合う「綱引き」もまた、予祝であるといわれています。

私たちに馴染みやすいものとして、社寺に行くと必ず見かける『絵馬』を思い浮かべると良いかもしれません。これは、主に願掛けやその願いが叶ったときに奉納するものですが、絵馬であれば、現代を生きる私たちにも気軽に予祝を取り入れることができます。
願い事を書くときに注意したいことは、未来形ではなく、よりイメージを明確にした「未来完了形」で書くこと。それにより潜在意識が働き、より引き寄せの効果を高めることができるといわれています。

ときに人は、「地に足をつけ、最悪な事態を想定しながら生きることが上手に生きるコツである」と言いますが、決してそのようなことはありません。前述したように、否定的なイメージを膨らませることは、幸せな現実や人生を遠ざけてしまいます。

予祝は、日本の諺にもある『始めよければ終わりよし』に通じるものがあり、また、中国の古典である「易経」にも、『君子以作事謀始※②』という言葉があり、君子は最初によく調べて万全の計画を立てる、とあります。
※② くんしもって ことをなすには はじめをはかる

古くから伝わるこの慣例に倣い、皆さんも予祝を日々の生活に取り入れてみてはどうでしょうか。明確に、明るく前向きな未来を(先に)想い描くことで、人生はより大きく好転していくのかもしれません。


今日は、予祝(よしゅく)についてご紹介させていただきました。
ありがとうございました。

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