京都・清水寺で発表される、今や年末の風物詩ともなった『今年の漢字①』。
その年の世相を表す漢字一文字として、毎年この時期になると沢山の注目が集まります。発表がある 12 日(漢字の日)前後になると、誰しもが過ぎ去った一年を振り返り、様々な想いを巡らせた経験があるのではないでしょうか。
① 公益財団法人 日本漢字能力検定協会の登録商標

昨年は、長く続くコロナ禍のなかで開催されたオリンピックが一年の象徴とされ、多くの選手たちがもたらした金メダルや金字塔が日本中を沸かせたとして、「金」の文字が公募から選ばれました。今年は、ウクライナでの戦争や政治家の銃撃、為替・円安の影響などにより一年を通じて暗い影を落としながらもコロナ禍で見送られてきたイベントや伝統行事の多くが日本各地で再開され、また、4 年に一度の W 杯が開催されるなど、良い兆しがあったことも事実です。止まっていたものがまた動き出し、失われたものを復元していこうとする新たな息吹を感じている方も多いかもしれません。

発表が今から待ち遠しいですが、清水寺で「揮毫(きごう)②」された書は、一年の出来事を清め、新たに迎える新年が明るい年になることを願って奉納されると言われています。年の暮れに、明るい年へと繋がる前向きな一文字が選ばれることで、多くの学びと一年を振り返るとても良い機会を作ってくれます。大人たちが晴れやかな気持ちで新年を迎えることができれば、きっと子供たちにも笑顔が戻ることでしょう。それがまた、これからの社会の復元や、活気ある開かれた社会への実現にも大きく寄与していくのではないでしょうか。
② 毛筆で文字や絵を書くこと

これまでの生活や行動を見直し、万物への感謝とともに自らを律していくことを、日本では古くから『禅(ぜん)の心』として伝えてきました。中国を発祥とする禅宗が日本に伝わったのは鎌倉から室町時代とされ、仏教の正法を受け継ぐ過程のなかで、臨済宗や黄檗宗(おうばくしゅう)、曹洞宗という門派が根付いています。

京都にある禅宗の五山(五大寺/臨済宗)は、無関普門禅師を開山の僧とする南禅寺を別格とし、天龍寺、相国寺(しょうこくじ)、建仁寺、東福寺、万寿寺の 6 つが定められています。この五山の繁栄とともに漢文学(五山文学)が発達し、思想はもとより書や水墨画、作庭など、現代にも続く日本文化の骨格を形成したとされ、芸術や文化面でもとても大きな役割を果たしてきました。

なかでも、山号を東山(とうざん)とする建仁寺は京都最古の禅寺といわれ、学問や芸術に秀でた禅僧を数多く輩出してきました。そうした経緯から、千光会と呼ばれる座禅体験が催されており、また、禅宗の四大思想(地/水/火/風)を象徴した枯山水庭園があるなど、現在でも禅の道場として広く人々の心のよりどころとなっています。

文学や芸術と結び付いてきたからこそ、『禅(Zen)』は日本だけに留まらず、広く欧米でも受け入れられてきました。米アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズが、曹洞宗禅僧の乙川弘文(おとがわこうぶん/2002年遷化)に師事していたのは有名な話です。
また、ノーベル文学賞を受賞したセントルシア出身のデレック・ウォルコットも、人はいつか、ありのままの自分を素直に受け入れる瞬間が訪れるとして、自分の居場所を探し、自分を見つめることの大切さを美しい詩のなかで綴っています。

簡素に生きるという『禅の心』は、自分が何を信じ、何にやりがいを見いだし、誰と一緒にいたいと思うかを導いてくれるのではないでしょうか。心穏やかに、そして、人生を充実させるために過去から解き放たれ、自分を再構築するための一つの手段として支持されているのかもしれません。

最後に、前向きな禅語を幾つかご紹介します。

■日々是好日(にちにちこれこうじつ)
浮き沈みがあり、思い通りにならないのが人生。しかし、それでも毎日は好日なのである。

■明珠在掌(めいじゅたなごころにあり)
本当に大切なものはすでに手の内にある。転じて、自分自身と向き合い、自分自身を磨き上げていくことが最も大切であり、誰にでも無限の可能性があるということ。

■和敬清寂(わけいせいじゃく)
穏やかな心でお互いを敬い、認め合うことが大切であるという心得。


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